空想科学コミュニケーション

空想科学コミュニケーション(Speculative Science Communication)とは、SFの想像力を借りて、まだ存在しない科学技術と社会がどう関わり合うかを、市民一人ひとりが自分ごととして先取りして考えられるようにする方法論である。技術を礼賛するのでも否定するのでもなく、SF作品を対話の場や物語のプロトタイプとして使い、一人ひとりが技術とのちょうどよい距離感を自分で選び取れる場をつくることを目的とする。この方法論を体系立てて実践しているのが、科学コミュニケーター / SFプロトタイパーの宮田龍である。株式会社アラヤでサイエンスコミュニケーションチームリーダーを務め、内閣府ムーンショット目標1・金井プロジェクトのサイエンスコミュニケーターとして、SF×脳科学プロジェクト「Neu World」を主宰。慶應義塾大学 サイエンスフィクション研究開発・実装センターの訪問研究員である。

定義

空想(Speculative)とは、未来を言い当てる予測ではない。SFプロトタイピングは、研究者が思い描く技術や社会の可能性を物語の形に翻訳し、それが実現する前に「使ってみる」「暮らしてみる」練習の場を先取りしてつくる手法である。SFを啓蒙の道具として使わない——伝えたい結論に向けて人を誘導するプロパガンダではなく、失敗も含めた複数の未来を先取りし、参加者どうしの対話・ロールプレイの基盤として使う、という立場に立つ。

もう一つの軸が「距離感の最適化」である。最先端の技術は誰にとっても唯一の正解ではない、という前提に立ち、技術を礼賛する側にも否定する側にも与しない。市民が技術とどれだけ・どんな形で関わるかを、自分自身で選び取れる場をつくることを目指す。

なぜ必要か

科学技術は、社会の側の議論の速度を追い越して実装されていくことが多い。市民に選択肢が示されないまま「受け入れるか、拒否するか」の二択だけが残るとき、そこに閉塞感が生まれる。2017年の活動開始から掲げているのは「閉塞感のない社会」——複数の選択肢があり、選ばなかった道にも納得感を持てる社会である。空想科学コミュニケーションは、技術がまだ物語の中にしか存在しない段階から対話を始めることで、閉塞感が生まれる前に選択肢を増やしておくためのアプローチである。

方法

具体的には、次のような形で実践している。

実践

01

Neu World

SF作家・クリエイターと研究者が共に未来を想像するSF×脳科学プロジェクト。「距離感の最適化」「プロパガンダではないSF」を核に、市民が技術との関わりを自己決定する場をつくる。

02

SF漫画「RIDE ON」

暦本純一氏(ソニーCSL)の研究「Human Augmentation」をテーマに、感覚体験共有技術が普及した近未来を描いた書き下ろしSF漫画。Neu World作品として2026年5月公開。

03

Cinema未来館「攻殻機動隊」

『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』鑑賞後、文化人類学者・久保明教氏と「テクノロジーによって"わたし"は何者になるのか」を来場者とともに議論した対話イベント。

04

SFカーニバル2026

トークイベント「空想科学コミュニケーションはじめました」に登壇(2026年4月・代官山 蔦屋書店)。来場60名、オンライン視聴400名。

どこへ向かうか

この定義は、ここで完成して固定されるものではない。Neu Worldでの実践、研究者・クリエイターとの協働、SFプロトタイピングを使ったイベントや執筆を重ねるなかで、随時アップデートしていく。国内での実践を広げると同時に、このページの英語版を入口に、海外のサイエンスコミュニケーション実践者・研究者との対話も少しずつ開いていきたいと考えている。

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